第一章 優しい人達

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 言及すると父さんは言葉に詰まってしまった。以前母さんに聞いた話なのだが昔の父さんはとにかく女ったらしでテレビでは放送コードに引っかかるような事を毎晩していたらしい。どうせ、今の話を聞くと山中ならやり放題とか言うつもりだったのだろう。 「それで今年はあなた達一緒なの」 「はい!」  春が嬉しそうに返事をしている。僕達二人は今まで春が気を利かせていた事もあるけどクラスが同じになると毎年行事などの班では一緒になっていた。 「涼よかったわね、春ちゃん悪いけど面倒お願いね」 「任せて下さい」 「そこまで子供じゃないよ」  胸に掌をポンと一度叩いて満足げに笑顔だ。その隣で深い溜息をつく僕。  四人は会話をしながら食べていたのにもかかわらず、僅か三十分足らず平らげてしまった。それからはというと各々の時間。父さんはテレビの前に陣取りバラエティー番組を母さんと春は食器洗いを、そして、僕はこの誰もお風呂に入っていない時間を好機だと思い入浴をすることにした。頭と体を手早く洗い湯船に沈む。初夏とはいえ湯船に身体を沈める事で心がリラックスできる。それに今日はたくさんの出来事があったから脳内で整理もしたかったからだ。 「おばさまー、私お風呂はっていいですか?」 「大丈夫よ」  すりガラスの向こうでは衣擦れの音がして肌色範囲が広がっていく。 「ちょっと待て待て! 入ってるぞ」 「え?! 涼入ってたの先に言ってよ!」 「電灯点いてるんだからわかるだろ、脱いだ服だって置いてあるだから」 「……」  やっと自分の非を認めたか。 「もうすぐ出るからリビングで待っててくれ」 「…………いる」 「え、何?」 「私、一緒に入ることにした」 「何言ってんだ、お前」 「大丈夫だよタオル巻いてるし昔はほぼ毎日だったんだから」 「もう高校生だぞ、それに両親に見付かったらどうする?」 「あなたたちさっきから何騒いでるの?」 「言わんこっちゃない」  当然無理だろうと思ったけど、いや無理であって欲しかった。 「良いんじゃない、母さんとしては春ちゃんをお嫁にもらって欲しいぐらいだし。ただし、変なことはしないこと」 「変なことって何だよ」  母さんはそれだけ言い。僕に含み笑いを向けて脱衣所から姿を消した。 「おばさまも許してくれた事だし入るからね」 「……はぁ」  そう言って本当に浴室に侵入してきた。
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