第一章 優しい人達

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春は髪の毛から丁寧に丁寧に洗い始めた。最初はまだいいがそのまま進めば身体を洗う事になる。当たり前だが身体に巻いてあるタオルは外さねばなるまい。そう考えながら非常に居た堪れない気持ちでいた。今はまだシャンプーからコンディショナーに移ったところ、この場を離れるなら今しかない。 「あれ、どこ行くの? いたぁ~い目に入ったー」  こちらを向いたせいでまだ落とし切ってないシャンプーが目に入ったようだ。 「じゃあな」 「ま、待ってよー涼」  髪の毛も拭かず身体につく水滴を手っ取り早く拭うって早々に着替えをすませ脱衣所を脱兎の如く脱出した。後ろでは脱衣所から洩れる僕を呼ぶ春の声がこだましていた。入れ違いに血相を変えた母さんが小走りで擦れ違った。あとで母さんに問いただされるなこれは。  部屋に戻ると読みかけだった小説を手に取り開いてひたすら字を追った。読み始めて二十分も経った頃、大きめなTシャツで下半身はパンツだけという無防備すぎる格好で部屋に来た。 「着替え忘れちゃったっておばさまに伝えたら涼のTシャツ貸してもらえた」 「……それって」  僕は覚えていた。数日前、買い物に出掛けた母がいらないのに僕にTシャツを買ってきた。着てみるとぶかぶかでサイズを確認すればLLと書かれていた。そんな事情をつゆしらず嬉しそうに見せてくる春にはとても言えなかった。 「よかった、な」 「うん」  春は女子の中で身長が高い方で男子とあまりかわりのない高身長だ。僕は165cmで春より小さい。入学してすぐに身体測定があった日に訊いてみたら、何と170cmもあったらしい。最近は僕よりは大きいとは思っていけどそこまで成長したか。ついでにその時、知りたくもないのに胸囲はクラス一だったそうだ。それを僕に伝えてどうしろと言うのだ。 「でも、気持ち悪いんだ」 「僕何かしたっけ?」  怪訝な視線を送れば両手を振り即座に勘違いだとしれた。 「じゃあどうしたの」 「んー、さっき着替え持って来なかったこと言ったじゃない」  黙って頷く。
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