第一章 優しい人達

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「だからぁ……下着も持ってなかったの、だからね、涼のトランクス貸してくれない」  とりあえず、近所のデパートに全速力で駆けた。風呂上がったばかりなのに既に汗は外出様に着替えたTシャツをぐっしょりにさせていた。家を飛び出る前に試しにサイズを訊いてみたらあっさり教えてくれた。デパートのランジェリー売り場で素早くDカップのブラジャーとそれとセットのショーツを掴みレジへ急ぐ。閉店まじかでしかも汗を滝の様に流しながら女性物の下着を片手にレジ手前で息切れしている客を、さぞかし店員さんは変態だと思っただろう。しかし、予想外にもしゃんと売ってくれたところは有難かった。手に入れたはいいものの帰路は心臓はばくばくしていた。向かいからライトを揺らして走ってくる自転車とすれ違う度に挙動不審。傍からすれば完全に不審者だろう。袋の中身は無難に選んだピンク色でところどころレースがあしらった上下セットの下着が収められている。女性物の下着を片手に帰宅してるところ巡回警官に呼び止められ交番まで連れて行かれんじゃないかとひやひやしている。 そして、いくら交番で幼馴染みが家に泊まりに来て下着を忘れたから代わりに買いに来たんですと言っても、誰もが通る道だよお兄さんもね……とか諭されるに決まってる。挙句の果てに親を呼ばれ、あんたそんな趣味がなど母さんに延々呟かれるんだ。 「びくびくしてどうしたの」  そんなネガティブ思考を高速回転させている間に、自宅の玄関を開けて無事帰還。どうやらずっと待っていたようだ。春曰く、下はショーツ早く変えたいし上はノーブラで擦れて痛いし。…………擦れるってなにが? 以上の観点から玄関先でいまかいまかと待っていたようだ。 「それで買えたの?」 「……まぁ、な」 「ありがとう涼」  そう口にした後いきなり着替え始めるものだから、自室に戻りながら空き部屋で着替えろと吠えた。 「電気消すよ~」 「おっけー」  ベットで横になって数秒……。 「どうして部屋にいんの? 隣の部屋使えって言ったじゃん」 「昔はこうやってよく一緒に寝たじゃなーい、恥ずかしがっちゃって」 「恥ずかしがってねーよ」  たとえ、同じ部屋で寝るからって高校一年生二人が一緒のベットで眠るのはどうかと。これじゃあまるで、恋人か夫婦みたいじゃないか。
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