第一章 優しい人達

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「このサンドイッチおいしい」 「本当だわ、挟まれているトマトも新鮮で何よりチーズがとろけていておいしい」  差し向かって座る二人の幸せそうな顔ったらない。 「そっちはどうなの? ……いたただきー」 「あっ……」 「まあまあだね」  春はああ言っているがそんな事は無い。金額からしたら十分満足だ。サンドイッチは1000円でピザは500円。この金額でサンドイッチのうまさを超えてはいけないと思う。同じ店の物ならなおさら。 「二人とも仲いいね」 「小学生の時から一緒だったからね~」  羨望の眼差しで視線を送ってくる松山さんも過去に何かあったのだろうか。しかし、今の彼女からは到底そのような様子は見て取れない。 「松山さんと春はいつ頃仲良くなったの?」  二人は見詰めあい、春が応えた。 「入学して一日目に私が話し掛けてからかな」 「そうね」 「あの時のりなは涼みたいに誰とも会話しないで席に座ってた」 「まだ『友達』が居なかったのよ」 「本当かな」 「疑うの?」 「う~ん、信じてるよ友達だもの」  いつの間にか僕を措いて空気の密度が濃く感じる。雰囲気が重い。どーすんだこれ。 「……食べ終わったしそろそろ行こっか」 「そうね。早めに終わらせないと夕飯に間に合わないわ」  その後、三人で各フロアを回りながら一通り必要なものを揃えた。結局食べ終わってから一時間半も掛かってしまった。デパートの出入り口を通って表に出た頃には七時三十分。すでに空は陽は沈み始め藍色となっていた。松山さんとはデパート前で別れ、二人で帰路につく。駅前は人も多く街灯も明るい。これから夜が更けていくなど信じられなくなるくらいだ。しかし、ひとたび道を外れてしまえば街灯もまばらだ。その道すがら質問をぶつけてみた。 「どうして松山さんに吹っ掛けるようなことした」 「う~ん、そんなつもりはないけど。……ただね」 「ただ?」 「りなは何かを抱え込んでて涼みたく友達を作るのが下手になってたのかなって」 「それって入学初日の話だろ」 「片方はね、でももう片方の悩みは未だに解決できてないみたいなんだ。訊いてもはぐらかされるしね」 「考え過ぎでしょ」 「そうならいいけど」  僕の言葉を聞いても安心できないのだろう。別れるまで終始心配そうな表情を崩さなかった。
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