第二章 親睦会

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「涼~、早く早く」  奥の席から目一杯腕を伸ばしている。その手にある七枚のカード、明らかに一枚他のより高くなっていて怪しい。それをジョーカーと判断し無難に一番左を引き抜いた。次の瞬間、咲の顔がにやりとした。 「ま、まさか……ね」  裏返すと道化師がこちらに不敵な笑みを浮かべていた。 「わーい、ひっかかったー」  右窓際で本当に楽しそうに笑って両手を上げている。このゲーム、たかがトランプかもしれないけれど大人数でやれば賑わって楽しい。さしもの僕も、どうやってジョーカーを送り込もうか企んでる最中だ。普段のネガティブ思考はどこえやら。 「みんな酷いな俺一人置いてトランプなんてさ」  振り返ればまだぼーっとしているのか細目の彼。真っ先に返答したのはやはり松山さん。 「だって起きそうになかったじゃない」 「でも、一応声はかけてくれたんだろ?」 「いいえ」  彼女は淡白だ。四方田くんは傍目からでも明らかに落ち込んでいる。肩も下がり俯いていれば誰でもわかることだ。女性陣は表面上誰一人心配そうにしていない、あくまで表面上。そこに少しだけ優しさを帯びた声音で松山さんが言う。 「目覚めたのなら次のゲームから参加ね」  僕にだけ見えた。行動には一切表れていないけれど、松山さんの最後の言葉を聞いた四方田くんはにやにやしていた。結局あの後、四方田くんが加わって二ゲームをしたところで目的地に到着。終始負け続けた四方田くんは、もう一度だけもう一度だけと食い下がりずいぶん悔しそうな顔をしていた。その頃クラスメイトは続々とバスを降り、残るは六班と四班だけ。担任の眼がぎょろりと六班を見詰めていたような気がした。他の班員も気付いたのか荷物をまとめ急いで降りる。 「これ登るのかー」  六班の皆が山を一瞥して溜息した。それもそのはず、建物までしっかり舗装されているようだが近年の子は山に登る経験もないだろうから校長が登らせたいらしいのだ。確かに生まれてから一度も経験したことは無い。まあ、僕はともかく。春が楽しそうにしているからいいか。ここはまだ麓、これから登頂する。先に到着した先生方が各所のチェックポイントで待っている。校庭でこれは迷子を防止策だと聞いた。でも、これだけの人数でどうやって迷うのだとも思ってしまう。担任も一緒なのに。
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