第二章 親睦会

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「いやぁ、これ本当は持ってくる予定じゃなかったんだけど、夜中眠い中支度してたから間違って詰めてきてみたい」  冷たい視線はやや和らいで彼女も申し訳なさそうに喋る。 「まぁ、いいわ……実はあたしもバスで食べるはずのお菓子が幾つか残ってたのよ」 「なぁんだよお相子じゃん」  そして自然に二人の眼差しが僕に。 「え……と、何か?」 「涼は何かあるのか? 飲み物とか食べの物」 「ごめん、食べる物は……水筒に飲みかけの麦茶があるぐらい」 「でしたら、ある物を三人で分けましょうか」 「名案だ、じゃ手早く分けて朝食にしよう」  彼と彼女がこれは均等じゃないと揉めてる間、僕は胸中で高校に入って初めてと言えるぐらい充実している感じがした。山で迷って匠と夜通し他愛のない会話をしたり、今だって三人で食べ物を分け合って食事にするなんてこれ以上充実したのは小学生以来か? 途端に過去の彼らとの充実した毎日の思い出が想起され、心に黒い感情が久々に現れた感覚がした。唇の端を噛んで必死に忘れた後、顔を上げればすでに配分は終わり食べていた。 「ちょっ」 「涼急げよ今日こそは元の道に戻るから、これ食べて三十分したら出発だ」 「わかった」 目の前にはすでに配り終えた食料が鎮座。空腹のせいか食料が辺りと比べ輝いているように見える。均等に分けられた物にはポッキー三本カロリーメイト一本、そして水筒に残った麦茶を水筒蓋部分に半分ずつ飲もうと決められた。それらを十五分程で咀嚼し終えると素早く片付けをして昨日歩いてきたと思われる方角に足を進めてみる事に。間違っていなければ無事元の分かれ道まで辿りつける。  「やっぱり動かないで助けを待った方が良くなかった?」 「それも考えた、けど俺達にはもう食料はねぇんだここで待ってるだけだと……死ねぞ」 「やめてよ! 縁起でもない」  松山さんにしては珍しく張り裂けるような声で応じた。やはり不安が大きいのだろう。徐々に彼女の口数も減っていく。本来の道と違ってか今僕らが歩いているところは人があまり通るとは思えないほど草木が茂っている。昨日外れてこちら側に踏み込んだ時はまだいくらか人が通れそうだった。陽が沈み始めた頃には道が途切れているのに気付かず進んでしまったのだろう。きっと、春と咲さんはこちらの道に一歩たりとも足を踏み入れてない気がする。
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