huts

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俺は歩いた。目的などない。当てなどある方がおかしい。ただ、留まっていても何かある訳ではないのではないか、と思えて仕方がなかっただけである。 ――そうだ、光は、光は何処にある? 違和感に気付いたのはその時であった。世界を感じるにしても、何か重要な感覚を忘れているような気がしていたのだ。それが視覚、光を求める力であった。 感覚がないのは存在しないも同然、と誰かが言っていた気がする。それが誰かは無論分かるはずもないが、考えに至るからにはどこかに感覚の種はあったはずである。故に、俺はこの世界でも光を欲した。 ある感覚が寸断されると、他が敏感になる。歩む足の裏、壁を伝う手の平、空気に曝される耳と鼻、残された感覚が研ぎ澄まされ、周りの感覚が目もなく見えてきた。小さな起伏の一つでさえ、モノクロの背景に現れるように。 そして遂に俺は見つけた。僅かながら空気が揺らぎ、壁の震えが異質な点を。有機的な土の香に、うっすらと分かる光を。 ――これが光の世界だな。 根拠は薄かったが自信はあった。壁を渾身の力で殴り、体当たりをし、閉じられた世界に孔を穿たんとした。最初はただ自傷だけの徒労だったが、徐々に壁が削れ、音は高く響き、外の気配が徐々に鮮明になっていった。 ――……光あれ! 壁が崩れ、まばゆい光が目を眩ませた。だが、元々目はあってなかったようなもの。そのまま孔を穿ち続けるうちに、遂に俺の身は窖の中から放り出された。 ――……何なんだ、ここは? 光に満ちた世界、遂に俺は光を手にしたのだと思ったのも束の間、そこは深い縦穴の底でしかなかった。文字通りのどん底である。 幸いにも日が差す地面には野草が茂り、岩の窪みには清水が湧いていた。俺は飢えを凌ぎ、渇きを潤した後、来る夜を迎えて束の間の眠りに就いた。
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