第一章 香川 慶太

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最初は口喧嘩から始まり、父の暴力で終わるのがいつもの喧嘩だが、その日は違っていた。馬乗りになって殴ろうとした父に、母は包丁を取り出して切りかかったのだ。 長い髪の毛を振り乱しながら、怒り任せに包丁を振り回す。青ざめた顔で逃げ惑う父を追いかけ、テーブルや壁に包丁を突き立てる母。壁に追い込まれ、手を切りつけられた父は逆上し、包丁を奪い取って母の心臓に深く突き刺した。 包丁が胸の肉を抉ると同時に、母は酸素を失った金魚のように口をパクパクさせながら絶命していく。 瞳から光が消えていく。 その一部始終を、俺は立ち尽くして無言で見つめていた。
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