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「はぁ……はぁ……
まさか……バドゥに人が乗ってたなんて……」
トレイズは女の子を背負い、バドゥの手綱を握り締め、ようやく畔まで泳ぎ着いた。
応急処置の知識だけはある彼はとりあえず女の子の脈を取ろうと、豊満とは言えない胸に手を置こうとした。
「………………」
…………女の子の目が開いた。
しばし、その体勢で固まるトレイズ。
「……こふっ」
「あぁ! ごめん! これは疚しいことはないんだ!
誤解だから! 脈を取ろうとしただけで!」
体を起こし、水を咳と一緒に吐いたのがきっかけに、トレイズはマシンガンのように謝罪の文句を連射した。
脈を取るだけなら、別の方法があったということに頭が働かなかったのだ。
「…………あんた、誰?」
「え!? あ、と
トレイズです
トレイズ・ルフィード
君は?」
トレイズはちょっと戸惑いながらも名乗る。
多分、“シャロン・シルバッハ”というのが彼女の名前なのだろうと予想していたが、中々返答が返ってこない。
女の子は頭に手を当て、顔をしかめた。
「…………思い出せない……
私は……誰?」
トレイズはこの状態を示す言葉を知っていた。
“記憶喪失”
「あ、そ、そうだ
多分、これは君のバドゥだと思うんだけど……」
泉に墜落し、気を失っているバドゥを彼女に見せた。
バドゥの体にはバッグと一緒に片手剣も備えられている。
彼女はバドゥの首もとに手を当てた。
「……この感じ……覚えがある
私は……こう……毛並みを整えてた……」
どうやらこのバドゥは確かに彼女のものらしい。
バッグの中に入っていた櫛を使って湿った毛を整えている。
その時、彼女はプレートを見付けたようだ。
「……シャロン……?」
「多分、君の名前だと思うんだけど……
そのバドゥは雄だし……」
「……シャロン・シルバッハ……
私の……名前……なの?」
自信はなさげだった。
しかし、何をするにも名前は必要だ。
「記憶が戻るまで、シャロンって名乗ればいいと思うよ」
そう彼女に促した時だった。
彼女の顔に血が飛び散った。
バドゥの胴体に丸い木の塊ようなものが落ちてきて、バドゥが血を吹いたのだ。
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