第1章: 泉の畔

4/5
前へ
/134ページ
次へ
「……え?」 2人は動けなかった。 バドゥが暴れ、血で染まる泡を吹いて、次第にぐったりしていく様子をスローモーションのように見ていた。 木の塊が鳥の形になり、シャロンに向かって鋭い嘴を突き刺さんと突進する。 「……離れて!」 いち早く我に返ったトレイズは呆然自失していたシャロンを突き飛ばし、バドゥの胴体にあった片手剣を取り突進する化け物を弾いた。 しかし、嘴の軌道を逸らしただけで、嘴はトレイズのこめかみの皮を抉る。 「つっ!」 「あんた!」 トレイズは左手でこめかみを押さえ、シャロンは泉の浅瀬で尻餅を付いている。 化け物、ウッドルーダは旋回し再びシャロンに向かって、体を捻り回転して急降下を始めた。 「あ、つぅ!」 シャロンは足を挫いたのか、足を押さえ、立ち上がれない。 「いやぁ!」 シャロンは目を閉じ、顔を背けた。 しかし、いつまで経っても、嘴は自分の頭には刺さらない。 「……だ、大丈夫?」 シャロンの額に嘴が刺さる寸前、トレイズがその間に割って入り、片手剣の側面で突進を止めたのだ。 片手剣を両手で押さえ、シャロンに声を掛けるトレイズ。 あまりの驚きで声がでないシャロン。 「……とりあえず、剣を握るのは久しぶりだから、危ないかもしれないけど…… なんとかしてみせるから……」 トレイズはチラリと微笑みを見せ、シャロンを安心させて真剣な面持ちでウッドルーダに向かい合う。 トレイズは左手を剣から放し、下からウッドルーダに向かって突き上げた。 大きく上がるウッドルーダの体。 それがきっかけだったのか、ウッドルーダは狙いをシャロンからトレイズに変更したようだ。 ウッドルーダは鋭い爪をきらめかせ、トレイズに襲い掛かるが、トレイズはそれを迎え撃つ。 「双牙掌!」 斬り付けてウッドルーダの体を沈め、すかさず左の拳で打ちあげた。 ダメージにはなっただろうが、決め手には程遠い。 だが、ウッドルーダは技の威力に気を失っているのか、フラフラと頭を揺らしている。 トレイズは左手に力を込め、ウッドルーダに近付いた。 「魔神拳……!」 隙だらけになったウッドルーダに赤いオーラを纏う拳を振り上げたトレイズ。 赤い衝撃波が放射状に広がり、全弾ウッドルーダに直撃する。 「蛍火!」 ウッドルーダは炎に包まれた。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加