第1章: 泉の畔

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泉の浅瀬に黒い木炭の塊が沈んで、近くの木の根本に怪我した2人が座っている。 「……はい、とりあえず捻挫のお礼」 シャロンはトレイズの頭に包帯を巻き、ガーゼを当て止血した。 そのシャロンの足にはしっかりと包帯で捻挫の応急処置のあとがある。 「あ、うん……」 包帯やガーゼ等はバドゥのバッグの中に入っていて、トレイズがウッドルーダを倒した後に回収した。 そのバドゥはすでに手遅れであったが…… 「……くしゅん!」 トレイズが目の前の小さな墓を見た時、シャロンが可愛らしいくしゃみをする。 今気づいたのだが、2人とも泉に落ち、びしょ濡れであり、シャロンの白い薄い踊り子のような服がピッチリと肌に引っ付いている。 トレイズは顔を真っ赤にして背け、黙って濡れていない制服を差し出した。 「……何?」 「……えっと、風邪を引いたら大変だし……」 無愛想なシャロンの言葉に建前を述べるトレイズ。 本音は透けている衣服を隠すためであり、トレイズの位置からは下着の柄まで丸分かりだ。 そんなことに気付かず、シャロンは制服を受け取り、ためらいなく袖を通す。 「…………ありがと」 「いや! これは男として当然ってか、その…… …………ごめんなさい」 感謝されているのに、下着を、不可抗力とはいえみてしまったことを謝ってしまうトレイズ。 お分かりかもしれないが、彼はかなりのあがり症で女の子ともあまり会話したことがない、いわゆる草食系男子なのだ。 その謝られたことが気に入らなかったのか、シャロンは顔をしかめ、口を開く。 「……感謝してんのに謝るって返しはないんじゃない? はっきりしない態度って相手をイラつかせるだけだからね」 この褐色の少女、かなり気が強いようだ。 謝った理由が分からないとはいえ、命の恩人を叱る人はそういない。 「……何、ボケッとしてんの?」 「え?」 唐突に怒り口調で話しかけられたトレイズは間抜け面をするしかない。 しかし、シャロンの次の言葉に驚愕した。 「だから、家に案内しなさいよ こんな記憶喪失の可哀想な女の子をびしょ濡れのままここに放置しておくつもり? もしそうなら、あんたの股に〇〇が付いてるのか、疑うことにするから」 なんとも正反対な性格の2人であろうか。
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