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「シャワー、ありがと」
バスルームから出たシャロン。
先程の服とあまり変わらない、薄手の白いズボンと足首まである長く白い上衣を着ている。
端から見ると褐色肌の美人の踊り子である。
トレイズはベランダの壁に寄り掛かり、下を向き、鞘に入っている剣を見ていた。
「……どうしたの?」
シャロンはそれに気付いて、トレイズにそっと近付き部屋の中で座って声を掛ける。
一瞬びくついたようだが、シャロンだと気付いて微笑みを浮かべるトレイズ。
「……久しぶりに剣なんて握ったなぁって」
「なんか嫌なことでもあったの?」
感慨深く呟くトレイズにシャロンは風でなびく茶髪を押さえ、再び訊ねた。
トレイズは答えずに立ち上がり、シャロンに剣を押し付ける。
「いや、家族のことが心配になってね」
シャロンはそれ以上聞くことはなかった。
ホームシックになることなんて、誰にでもあること。
記憶がない自分が“家に帰りたい”と思っているのだから、少なくともトレイズの気持ちは察することは出来た。
「……あ、シャロンも付いてきて
今から病院に行って、検査してもらおう?
記憶喪失の場合、頭を強打してることが多いらしいし
足も十分じゃないでしょ」
シャロンにとって、トレイズの気遣いはかなりありがたいものだった。
しかし、同時に同情なのではないか、と思えて素直に感謝することもできなかった。
「……分かったわ」
そう簡単に応え、シャロンは革のバッグを上衣の下に腰にベルトを巻き付け、念のために剣を胸に抱きトレイズを追った。
「あ、剣は要らないと思うんだけど……」
「これは私のなんだから別にいいでしょ」
トレイズの忠告に耳を貸さず、シャロンはそっぽを向く。
トレイズは、こればかりはかなり避けたかったが、記憶がないシャロンを心配にさせても仕方がないため、それ以上何も言わない。
2人は一緒に部屋を出た。
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