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木造の酒場は昼間から賑わっていた。あまり広くない店内を、ビール樽のような腹を突き出した店主のオヤジが、ビールジョッキをテキパキと運んでいく姿は何とも予想外だ。
店のあちこちから笑い声が聞こえ、うるさいほどだがこれもこの店の雰囲気なんだろう。
今どこかのテーブルで食器が割れる音がしたが、店主は「またかよー」という感じで気にした様子はない。
そんな無法地帯とも呼ばれるような店の中で、キッチリと軍服を着た男二人が向かい合って酒を飲んでいた。
一人は晴天の青空のような色の軍服。真っ黒な長髪を後ろでひとくくりにした髪型で、美味しそうに赤ワインのグラスを口に運んでいる。つまみのチーズも進んでいる所を見ると、かなり飲んでいるようだが酔った様子はまったく見えない。
もう一人は、草原の若草のような色の軍服。脱色された赤茶の短髪をツンツンに逆立てた髪型。こちらは冷えた生ビールをグビグビと喉に流し込んでいる。つまみは何でもアリらしく、メニューを片っ端から頼んでいるようだ。テーブルのほとんどが彼が頼んだ皿で埋め尽くされていた。ほとんどカラだが。
最後の一口を口の中に消失させた若草色の男は、青空色の男の目の前にある皿からチーズをつまみ、口に放り込んだ。
「......若草......」
「チーズもうまいな!!」
青空の切れ長の鋭い視線が若草に突き刺さるが、まったく気にした様子はなく全て平らげた。
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