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「パパ、鬼さんってどこに住んでるの?」
無邪気に絵本に描かれた鬼の絵を指差しながら小さな男の子が父親に訊ねた。父親は息子の頭を撫でながら答えた。
「鬼さんは森の奥に住んでるんだよ」と……
「…確かに昔、親父に訊いてたけど…アレ、マジバナだったのかよ」
片手には真っ白なページと化してしまった古ぼけた本を持ち、呆然と目の前で起こり続ける現象に為すすべもなく立ち尽くす青年。
ネズミ返しのような天井から見える空は晴天なのに、流れる雲は竜巻によって渦を巻き、小さな社を粉砕していた。その竜巻の中心には、白い狩衣姿の幼い少女が立っていた。長い白銀の髪を風になびかせ、その髪に見え隠れするように一本の小さな角が生え、金眼は猛禽のように鋭く青年を睨みつけ、小さな牙が見える口で静かに言った。
「私は…ヒトの子を決して許さない。己の欲のためだけで破壊し、封じたヒトの子を…」
暴風音で聞こえるはずがないのに青年の耳には確かにそう聞こえた。
―――え?どういうことだ?それにアレは…泣いてるのか?
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