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“ドン・ドン・ド~ン・ドン
ドン
ド~ン”
息を呑む静寂の中、陣太鼓だけが鳴り響きいよいよ開始である。
『うおぉぉ~ぅ!!』
敵味方・応援席あらゆるところから、野太い低い声が一斉に上がり、両陣より駆け出した先鋒隊がほぼ中央で激しくぶつかりあった。
厚い胸板の男達が互いの胸と胸を激しくぶつけ合い、その激しさを物語るように皆の胸に赤みがさしていく。
どちらも譲らない中、技の三年生が魅せた。
一人が組み合う一年生の隙をつき彼の胸を軽くチュウと吸い、感じて恥ずかしさから胸を隠す一瞬を逃さずそこよりドドォーッと攻め入ったのだ。
雪崩込む三年生に、へヴィー級重戦車軍団の守備隊がガッチリ肩を組み腰を落として櫓を守り、簡単には通り抜けさせない。
しかし、三年生は過去2回この競技を見てきている。
一番身軽な生徒である太巻が後ろへ下がり、駆け出した。
ほんの一瞬の出来事である。
二人の三年生が両手を繋ぎ、走ってきた太巻がその手の上に飛び乗ったと同時にタイミングを合わせ太巻を投げた。
幼さの抜け切らない、可愛らしい悪戯好きな少年にさえ見える太巻は、その見た目とは裏腹に空中で2回宙返りを披露し見事櫓に着地した。
「ぬう…ツカハラか。見事…」
大田原校長が低く唸る、美しい月面宙返りだった。
「さあて、一年坊主。イッちゃってもらおうか」
もう勝った気の太巻を待ち受けていたのは、大将の伊達。
涼しげで端正な顔の彼は、幼く見える太巻に比べずっと長身で大人びた落ち着きのある男に見える。
また、顔だけではわからないが、褌一丁の今、彼は余すことなく鍛えた逞しい体を見せつけている。
「センパ~イ。期待していますよ」
櫓へ登れば、サシの勝負。抗うことなく、大将は敵兵の攻撃を凌がなければならない。
太巻は返事もせず素早く伊達の褌を取った。
「う…でか…」
「どうしたんですか?まさかここまで来て止める?」
太巻は頭を振って迷いの念を断ち切り、手を伸ばし攻撃を開始した。
太巻は決して下手ではない。この日のために日々鍛錬してきた。
だが、相手が悪かった。
相手は中学時代、数々の武勇伝により“四十八手の伊達”と言わしめた男である。
太巻との実戦での経験値が雲泥の差なのは明白。
「ふう…効かないッスよ…ヤル気あるんスか?」
必死に磨いてきた手技が通用しない。
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