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「観察」
「そうですか」
再び沈黙が降りる。岸田は双眼を有馬に向けたままだ。そんなに人を観察して何が面白いのだろうか。有馬は居心地悪そうに視線を逸らす。
「バイト、幾つだ」
「大学二年です」
「ふむ。どこの大学だ」
「ここから歩いて10分程度の所です」
「ほう」
これは面接なのだろうか。有馬は何なんだと内心悪態をつき、残りのコーヒーを口に付ける。
「男は好きか」
「っ、げほっはぁ?」
「冗談だ」
そう言い、岸田は口の端を釣り上げコーヒーを飲みきった。どうやら本当に冗談で言った様だ。訳分かんねぇ!と口に出しそうになり、有馬も勢い良くコーヒーを飲みきった。
その数秒後、インターホンの音が響き渡った。
「バイト出ろ」
「さっきからバイトって呼ぶの止めてくれませんかね」
「どう呼ぶかは俺の勝手だ。早く出ろ」
「はいはい、分かりました!」
ドアを開けると、渋い老紳士が立っていた。手には杖代わりなのかステッキを持っていた。有馬を見ると、老紳士は人の良さそうな笑みを浮かべた。
「岸田相談所はこちらで合っておりますかな?」
「はい、中にどうぞ」
中に促すと、老紳士は入るのに躊躇したがすぐ足を踏み入れた。
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