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ああ、この人もか、と有馬は納得しソファーへと案内した。
「ようこそいらっしゃいました、川井さん」
「こんにちは。あなたが岸田さんで宜しいかな?」
「はい。私が社長の岸田です」
猫を被るとはこういう事を言うのか。ついさっきまでの態度が嘘のように岸田は完璧に化けていた。有馬は茶を入れながら顔をしかめた。
「粗茶ですが、どうぞ」
「有り難い、どうも」
「単刀直入ですが、今日はどういった件でこちらに?」
「私の家に古い倉庫があるのですが、最近良くお手伝いがその倉庫で泣き声や呻き声を聞きまして。確認すると他の者も聞いているようでして……」
「ほう、その中には何が仕舞われているのですか?」
「……人形です。私の父が年代物のビスクドールや日本人形を集めるのが趣味でして……その類が仕舞われています。情け無いですが、怖くて中を見ることが出来ず、こちらに相談しに来たのです」
有馬は川井を見る。どこか落ち着きが無く、視線が泳いでいる。それに汗を拭くハンカチも回数が多い。
これは何かあるかもしれない、と有馬は岸田を見た。
岸田もそれを分かっているらしく、うっすらと笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
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