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男が扉を開け、目で入れと促す。有馬は緊張しつつゆっくりと中に入るとふ、と気が楽になった。緊張が解けたのもあるが、ここに着くまでに疲れていたものが取れたような。首を傾げる有馬に、男は意味有り気に笑みを浮かべソファーに座らせた。
「貼り紙を見て来たと君は言ったが、相談か?働きに来たのか?それとも好奇心か」
好奇心、と言う言葉には疑問符が付いていない。きっと男は好奇心に惹かれ来たと理解しているのだろう。有馬は素直に答えることにした。
「好奇心です」
「だろうな。大抵がそうだ。にしても、君は悩みがあるみたいだな」
「悩み……?」
「ああ。ここは相談するべき場所だ、言ってみろ」
悩み事なんてある訳がない。強いて言うならば、高額なアルバイト先が見付からないくらいである。有馬が何を言えば良いのか分からず、口を鯉のようにぱくぱくしていれば、男は優しく微笑んだ。
「何でも良い、俺が聞いてやる」
「えーと、俺、一人暮らししてるんですけど、結構生活苦しくて……時給の良いアルバイト先探しているんですけど見つからなくて」
すらすらと言葉が自分の口で紡がれる。男の言葉はドロリと甘い誘い水の様だ。
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