プロローグ

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それに男の瞳を見ていると、頭が痺れ、思考が麻痺してくる。まるで見透かされているようで、見守られているような感覚に陥る。ある程度話を聞き終えると、男はいつの間にか作ったインスタントコーヒーを口にした。 「丁度雑用が欲しくてな、」 「はぁ」 「うちは時給も良い。」 「はぁ、確かにそうですね。」 「ここで働けば君の悩みは大分解消される」 つまり働けと言うことだ。確かに有り難いが、こんな訳の分からない所で働いて大丈夫なのだろうか。この男もどことなく異様な感じがする。有馬がどうしようか思考を巡らせていると男が口を開いた。 「この相談所に来る人間は“惹かれて"くるんだよ。」 「惹かれて?」 「そうだ。気が滅入ってる奴……例えば心霊だったり、嫌がらせだったり、友人関係だったり。そういう奴らは何か惹かれるものにつられる」 そういう奴らが来るのが、ここ。 そう言って、男は手を差し出した。有馬はその手に自分の手を重ねる。 「岸田だ。岸田社長と呼べ」 「いや、遠慮します。俺は有馬修治です。……宜しくお願いします」 不本意ながら、と言わなかった自分を褒めて欲しいと有馬は内心溜め息を吐く。突如、下を向いていた顔を突然顎を掴まれ上に向けさせられた。 「なっ、」 「ふむ、中々整っているな。合格」 「はぁ!?」 岸田の顔が近付き、品定めするようにじっくり見る。髪の毛が当たり、くすぐったい。離してくれと言うように一歩退くが、岸田もついてくる。睨む様に岸田を見れば、彼が端正な顔立ちをしているのに気付く。何だか恥ずかしくなり、視線を外して有馬は耐えることにした。 「こんくらいか」 「はぁーっ……」 漸く苦痛から逃れ、安堵する。何なんだこいつは、と岸田を睨めば社長椅子にどかりと座り机に長い足を乗せ、ニヤリと笑った。 「明日から宜しく、アルバイト君」 「……ええ、宜しくお願いします」 何だか危険な所に雇われてしまった。有馬は深い深い溜め息を大きく吐いた。
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