12人が本棚に入れています
本棚に追加
それに男の瞳を見ていると、頭が痺れ、思考が麻痺してくる。まるで見透かされているようで、見守られているような感覚に陥る。ある程度話を聞き終えると、男はいつの間にか作ったインスタントコーヒーを口にした。
「丁度雑用が欲しくてな、」
「はぁ」
「うちは時給も良い。」
「はぁ、確かにそうですね。」
「ここで働けば君の悩みは大分解消される」
つまり働けと言うことだ。確かに有り難いが、こんな訳の分からない所で働いて大丈夫なのだろうか。この男もどことなく異様な感じがする。有馬がどうしようか思考を巡らせていると男が口を開いた。
「この相談所に来る人間は“惹かれて"くるんだよ。」
「惹かれて?」
「そうだ。気が滅入ってる奴……例えば心霊だったり、嫌がらせだったり、友人関係だったり。そういう奴らは何か惹かれるものにつられる」
そういう奴らが来るのが、ここ。
そう言って、男は手を差し出した。有馬はその手に自分の手を重ねる。
「岸田だ。岸田社長と呼べ」
「いや、遠慮します。俺は有馬修治です。……宜しくお願いします」
不本意ながら、と言わなかった自分を褒めて欲しいと有馬は内心溜め息を吐く。突如、下を向いていた顔を突然顎を掴まれ上に向けさせられた。
「なっ、」
「ふむ、中々整っているな。合格」
「はぁ!?」
岸田の顔が近付き、品定めするようにじっくり見る。髪の毛が当たり、くすぐったい。離してくれと言うように一歩退くが、岸田もついてくる。睨む様に岸田を見れば、彼が端正な顔立ちをしているのに気付く。何だか恥ずかしくなり、視線を外して有馬は耐えることにした。
「こんくらいか」
「はぁーっ……」
漸く苦痛から逃れ、安堵する。何なんだこいつは、と岸田を睨めば社長椅子にどかりと座り机に長い足を乗せ、ニヤリと笑った。
「明日から宜しく、アルバイト君」
「……ええ、宜しくお願いします」
何だか危険な所に雇われてしまった。有馬は深い深い溜め息を大きく吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!