第一話

3/6
前へ
/52ページ
次へ
「何をしている」 「散らかってたので片 づけようかな、と……暇だったし」 「そうか」 そう言って岸田は座り心地の良い社長椅子にどさりと座った。有馬も引き続き、カップを洗う作業を再開する。全部洗い終えると、タイミングを見計らっていた岸田が声を掛けた。 「バイト、コーヒーを淹れろ。砂糖三杯だ」 「ああ、はい」 ふ、とシンクを見れば、適当に置かれたコーヒーメーカーが目に入った。有馬はそれを手にし、岸田にこれで入れますか、と聞いた。 「インスタントで良い。それは置いておけ」 「はぁ、そうですか」 インスタントコーヒーを差し出せば岸田はなにも言わずに受け取りすぐ口に付けた。有馬も特にこういう人間なんだなと気にせず、パイプ椅子に腰掛けた。 「今日は何かあるんですか?」 「ああ、まあな。もうすぐ来るだろう」 「そうですか」 重い沈黙。岸田は整理した資料からファイルを取り出し、じっと読んでいる。有馬は自分のコーヒーを口に付け、蛍光灯の移るコーヒーを見つめた。 砂糖三杯。てっきり岸田はブラックだと思った。人は見かけによらないとはこれを言うのか。有馬はまたコーヒーを口に含み、瞳を閉じた。 「……何ですか」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加