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再会の秋 「先生」
俺は少年時代、一時期更生施設の世話になっていた。
施設で俺の担当となった女性職員が、今の俺をつくってくれた。
大人を信じず、荒れた生活を続けていた俺に“人”を教え、“心”を諭した。
俺が初めて信じる事のできた大人で、人生の恩師だ。
先生は天真爛漫で物怖じせず、言いたい事はズバズバ言う。
既に年増なのに若作りに励み、女を忘れず、心も若々しかった。
とても美しく、格好いい女性だった。
そうだ、俺は20以上も歳の離れた彼女に、いつしか恋心を抱いていた。
尊敬の域を超えた感情に近い。俺の灯台となり、暗い時代の海原を照らし、道しるべとなってくれた彼女を愛していた。
俺は更生施設を出た後も先生と連絡を取り合い、会っていた。密かに思い続けていた。
例えいくつ歳が離れていようとも想いは変わらない。先生の為に何かしてあげたい。そう考える程愛していた。
だが、わかっていた。想いが報われないことを。
俺は飲み込んだ、溢れる想いを飲み殺した。
いつしか俺は新たな恋をし、新たな愛を知った。
俺は別の女性と結婚した。
式の仲人と司会は先生だ。人生の恩師として招いた。
その後は……互いに多忙を極め、連絡を取り合うことも無く疎遠になっていった。
それから再会を果たしたのは十数年後。
街を歩いていると同じ施設出身の奴と偶然すれ違った。
声を掛け近くのカフェに誘って彼女のことを聞くと、ある場所を教えてくれた。
あの日の気持ちが蘇り、込み上げて来た。
もう一度会いたい。
突き動かされた俺は会社を休み、郊外へ足を運んだ。
とある高級老人ホーム。
彼女は……そこで暮らしていた。その生涯を独身で過ごしていた。
ホームの庭、気持ちのいい風が吹く丘に車椅子の老婆の後ろ姿があった。
俺は老婆の元で膝を付き、痩せたその手を握った。
彼女は変わっていなかった。物怖じせず、信念を貫く性格の裏に隠された優しさ、深い慈悲と無償の愛情。
それらを語る輝く瞳。あの微笑み。
俺はまた出会えた喜びをかみしめて、彼女の手を握ると言った。
「先生……」
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