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「―――じゃあ、活動を始めて」
全員の自己紹介がおわり、いつもの部活動が始まる。
『蜂蜜レモン』
甘酸っぱい、この美味しそうな響きは、創刊十三年になる文芸部の部誌の名前だ。
「蜂蜜レモン」は月二回、第二、第四木曜日に発行される。
わたしは、来週それに載せる短編小説を書いていた。
高校生の女の子が、忘れ物のメガネを拾ったことからはじまるミステリー。
メガネの持ち主の探偵と、助手の少年と、不思議な事件。
穏やかな日常のすぐ隣にある奇妙な非日常に、普通の女の子が魅せられる。
そんな小説。
カタカタと、キーボードを打つ小気味よい音が響く。
頭のなかで、どんどんストーリーが展開するのが気持ち良くて。
気がつくと、三十分くらい経っていた。
パソコンの画面とにらめっこしていた目が痛い。あと、肩も。
「どれくらい進んだ?」
うーん、と伸びをした陽菜が聞いてくる。
「あとちょっとで終わるくらいかな。もともと後半に入ってたから」
「そっかー。いいなぁ。陽菜はね、詰まっちゃってー」
陽菜は疲れた顔をして、机に突っ伏した。
「陽菜は今なに書いてるの?」
「春をテーマにしたポエム…‥」
陽菜のパソコンの画面を覗くと、数編の短い詩が書いてある。
情緒的な、陽菜らしい詩。
わたしには出せない、感情豊かで女の子らしい陽菜の色。
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