雪の中で。

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雪が冷たく、そして確実に頭に積み重なって行く。 足は地面に降り積もった雪のせいで重く、冬だと言うのに、コートの中はじっとりと汗ばむ。 (大丈夫...?無理しないで。私、歩けるよ。) そう聞こえたきがして、ハッと後ろを振り返った。だけど、そこに存在する人は、もう何も話さない。白い景色の中に、黒い木の幹がポツポツと見えるだけだ。 歩き始めて、どれくらい時間が経ったのだろうか。百年の悠久が流れた...そう表現しても、違和感はない。 しかし、どんなことにも終わりはやって来るのであって、一本の木がこのゴールだった。 大きくて古いその木は、この森の主だ。 周りの木は恐れ多いかのよう彼には近づかず、森の奥に整然と、そして雄大に彼は存在する。 かつてこの近くにあった村では彼は信仰対象として扱われていたらしい...というのは、後で図書館で調べていて知った話だ。 そして、白い景色の中。彼は、やはりそこに尊大に存在していた。 あのハイキングで遭難した夏の日のように、青々とした葉は茂っていない。しかし黒と茶を混ぜたような色の木の枝が、広々と伸びていた。 あの頃とは、自分はもう違う。かつて己を信仰してくれていた人々のい村は、経済成長の波に飲まれて滅んでしまった。 しかし、この木は変わらない。変わらない。きっといつまでもここに、存在し続ける。 僕は大木のたもとの雪に腰かけ、背中から彼女を降ろした。 彼女の頭を太ももの上に乗せる。頼りない、冷えきった太ももだ。 「前と、逆だね。」 そう。あの日は僕の頭が彼女の太ももにあったのだ。 寒い。 サク、サクと柔らかくて重い雪を掘り返す。ちょうど、棺くらいの大きさになった。 その中に、彼女を入れた。 その顔は酷く穏やかで、白くて、まるで毒りんごを食べた白雪姫のよう。 「お休み。」 サク、サク。 女を埋めて、男は大木の元を去った。 ......その背中には、おびただしい程の血が滲んでいた。
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