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第二話〓おそうじ〓
シュンシュンシュン……。
部屋の隅に置かれた石油ストーブの上で、やかんが湯気を上げている。
そして、部屋の真ん中に据えられたこたつでは、一人の少女が座ったままうたた寝をしていた。
ふとその少女の瞼が開き、そこからつぶらな緑の瞳が現われた。
少女の手が、こたつの上のミカンの入ったかごへとのびる……。
ぺりぺり……ぱく……もぐもぐ……。
「やっぱり、冬はこたつでミカンよねぇ。」
その少女、もとい猫妖精のみかんは満足気なため息と共にそんな台詞を吐いた。
ゲシ!
「なにが『やっぱり冬はこたつでミカン』だ!」
みかんのマスターたる玲子は、みかんの後頭部に蹴りを入れつつそう言った。
「毎日毎日、ぐうたらぐうたらしおって!たまには私の役に立とうって気は起きないのかね?」
「そんなこと言ったって……マスター私の描いた絵、全部ボツだって言うじゃないですか……。」
みかんは瞳をウルウルさせながらそう答えた。
「当然だ!あんな、今どき幼稚園児でも描かんような絵を仕事に使えるか!!」
「うぅ、そんなぁ……。」
「私が言うのはだな……例えば机の上を片付けるとか、お茶を入れるとか、そういうことだ!」
その言葉にみかんの目がキラリと光る。
「あっ!そういうことでいいんですか!」
タラリ……。
みかんの勢いに玲子の額から汗が一筋垂れる。
「わたし結構片付けるの得意なんですよ!なんてったって、かずさんも泣いて喜んだくらいなんですから!」
(あの師匠が泣いて喜ぶ?それはすごい話だが……。)
「そう?じゃあ、さっそく頼むかな……。」
「はい!」
元気に答えるとみかんは、どこからともなく草ぼうきを取り出し、割烹着と姉さんかぶりという出立ちに早変わりした。
「……ヲイ。それどっから出したんだ?」
「まあまあ、細かいことはいちいち気にしない気にしない!」
「……。」
何か釈然としない顔のマスターに構わずみかんは続けた。
「じゃあ、居間の方からやっちゃいますね!」
「うん……頼むわ。」
みかんは嬉しそうにいそいそと部屋を出て行った。
(しかし、あの子も意外と家庭的なんだねぇ。)
仕事机に向かいつつ、玲子はそうひとりごちた。
しかし、次の瞬間ガチャーンという大きな音が響き、彼女は椅子から飛び上がった。
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