ドッペru原画ー ノ 肆

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   §   §   §  声と共に影。  一瞬、本当に僅かな一瞬だった。  あと少しでドッペルゲンガーに手が届きそうな互いの間に、声と共に、ゆらりと影が現れた。  それは、影としか言いようがない物だった。  すっかりと暗闇になれたら目が捉える、影の塊。  黒い、浅い、熱で揺らぐ陽炎のような影。  だけど、それはすぐさま形を確かにしていく。  黒が色を濃くし、深く結びつき合い、影は形へと塗り変わっていく。  次の瞬間には認識が変わる。  影は人になった。  影が男になった。  芸術科の制服、紺のブレザー、痩身長躯、赤いマフラー、横撫にされた黒い艶髪、鋭い眼光を隠すようなメタルフレームの細眼鏡、影から形を成していった事を除けば、きっと普通に居そうな、真面目そうな学生、優等生のような男子学生、  に、仮面と日本刀。  鎧武者がよくつけている、黒の面頬。  鎧武者がよく携えてる、黒の鞘と柄。  その二つで、充分過ぎる程に、彼は普通じゃない。  アンチ真面目、反優等生。  いや、そもそもこんな時間に校舎にいる人間が普通なわけもなく、影から形を成した時点で異形であり、つまりはこれもきっとその手の話なのだ。  さて、いつものように現状確認。  夜の学校で、  対になった瓜二つの僕等と、  赤マフラーの眼鏡武者男。  僕は、僕の偽物に気を取られて歩みを進めている内に、足を踏み入った。  仄暗い影の床。  光が届かない、池の底へ、其処へと、沈んでいたことに気がつかなかった。  もう既に、ここは影の領域だ。  徹底的に、容赦無く、加減無く、惜しみ無く。  既に此所は、怪談達の間合いなのだ。  
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