ドッペru原画ー ノ 肆

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   §   §   §  混濁する、煩雑と歪み、歪んでは墜ちる、下るように、流され墜ちる。    暗闇で胎動する、ここが走馬燈の始発地点。    記録の検索を開始します。    参照、エラー、参照、エラー、参照、エラー、    検索に該当する情報はありません。    僕はこの記録を思い出したくありません。    参照、エラー、参照、エラー、参照――ヒット。  僕は生まれた。  取っ手のない引き出しに入れておいたはずの、古い記録が、斬られた首より吹き出し、想起する。  これは確か、救いようの亡い、幼い頃の話。    これはそんな、愛の記録。  母の記録は、苦く、酸敗したような、血の味だった。  父の記録は、痛く、痺れるような、血の味だった。  好き嫌いはイケマセン、それが母の口癖だった。  母は若くして博愛主義者だった。  隣人を友愛し、  他人を信愛し、  外敵を悲愛し、  善も悪も、良しも悪しきも、オケラもミミズも、全てを寵愛することができる人だった。  母は弱く、優しい人だった。  好き嫌いはイケマセン、それが父の口癖だった。  父は若くして敵対主義者だった。  隣人を憎悪し、  他人を嫌悪し、  外敵を唾棄し、    善も悪も、良いも悪しきも、オケラもミミズも、全てに敵対することができる人だった。  父は強く、厳しい人だった。  僕は神様の奇跡を信じます。  僕はそんな二人の間に生まれた奇跡を信じます。  僕はそんな神様の奇跡を信じます。  僕はそんな二人の間に生まれて、きっと幸せだった。
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