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所々涙で歪みながらも綴られた言葉を見て、僕は初めて、身体から全てを吐き出した。
何もかもを、吐瀉する。
何もかもが、裏返る。
全てを嘔吐する。
逆流する胃液が食道を焦がし、涙が額を伝い、吐瀉物の中で転げ、叫びながら吐き出し、
そして僕は愛を失った。
母は、僕を愛してなどいなかった。
母は、母ではなかった。
全ては、偽り。
全てが、詐り。
何もかもが嘘だった。
僕は吐きだした、全ての嘘を、全てを詐りを、身体から追い出したくて。
今まで得てきた全てを、今まで取り入れてきた全てを、飲み込んできた全てを。
そして最後には、何もかもを吐きだして、空となった僕が残った。
そんな僕を見て、父は言った。
『 “若かった頃の母さんにそっくりだよ” 』
本当の母親の写真を、僕に見せながら、そんな事を言った。
僕は、その日、その時、初めて父を殴りつけた。
思いつく限りの暴力を行使した。
どんなに吐きだしても、
どんなに裏返っても、
刻まれた暴力だけが、空となった身体には残っていたのだ。
拳で殴り、
棒で打ち、
熱で焼き、
刃で切り、
歯で噛み、
愛のない、意志のない、ただの暴力が父の全てを痛めつけた。
妹は、それを見て笑っていた。
そして、僕はこの奇跡を、神の所行を、呪った。
そして父も唯一の愛を失って、痩せ細り、病み朽ちて、すぐに亡くなった。
その後、僕達は親戚一同に追いやられるように、薊ヶ原にある施設へと預けられた。
人とし扱うには、僕達は――してしまったのだと。
季節を追い、年月を数えて、僕等は御影ノ学園の学生になった。
父さんと、母さんと、あの女が出会った、学園の生――なった。
その年の春。
僕は、夕暮れ――教室で、一匹の――と出会ったんだ。
それから、――で、僕は、たし、か……――。
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