ドッペru原画ー ノ 肆

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  §   §   §  そこで、記憶を再生させるための燃料が無くなり、電源が切れた。  あぁそう言えば、僕は嘘が嫌いな人間だったのに。  あの嘘吐きに出会ってから、僕は変わってしまったのだろうか。  他にも色々と思い出してしまった。    順当に再生された所をみるに、頭はまだまともな方らしい。  思い返してみると、時間の流れをしみじみと感じる。  僕にとっては既に髪を伸ばした理由程度でしかない昔話だけど、思い返してしまうと、切り落としてしまった髪についての後悔もひとしおだった。    やはり易々と整えるべきではなかった。    また、この顔で毎日のように鏡前で出くわすのだと思うと、少なからず人生とやらに魔は差さなくとも、嫌気くらいは差す。  今すぐに髪が伸びるか、新しい顔と取り替えられたらいいのになぁと、冷たい現実から今一度違う夢の中へと逃げるべく、冷える足下に何か掛ける物はないかと薄く目を開いた。  僕と、削雛さんの生首と目が合った。  頭の隅辺りに追いやっていた、もっと度し難い現実が心臓を大きく膨らませて、脳が再起動した。 「シュウ、目が覚めたのなら、そこで気絶している役立たずを担いでホームに戻れ。私はこれから“商談”で忙しくなるのでね」  状況認識、急速解析、冷える薄暗い校舎の廊下に横たわっているのだろう僕と、僕と削雛さんの生首と、それがさっきまで繋がっていた四肢のついた人の身体と、そこから横腹の割れたワインボトルみたいに広がる、血の池。 「余所見とは。随分と甘く見られているようだな」  そこに立つ、仁王立ちの背中、振り返り流れる黒髪。  それと向き合い、再び腰の刀へ手を添える眼鏡武者の姿。  現状の認識、理解と繋いでようやく思い出す。    どうやら僕は、“自分のドッペルゲンガーが”首を落とされたのを見て、意識を失っていたようだ。
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