ドッペru原画ー ノ 肆

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 この状況で、こんな惨状を見ても、身空木の背中は何一つとして怖じるものを感じさせない。 「そちらは物を言える立場ではないだろう」 「いいや、お前はこの商談を受けなければならない。なぜなら、ここで私達をたとえ殺せたとしても、お前に“取り憑いた”怪談の畏怖は微塵も上がらないからだよ」  言葉に、眼鏡武者が構えを僅かだが、緩めたように見えた。 「……どういうことだ?」  問いを返された時点で、既に身空木の術は始まっている。  身空木が相手に対してやたらと微笑むのは、自分の口には牙がついていないと見せてやるためらしい。  こちらには、そちらを傷付ける術はないのだと、思わせるために微笑んで、 「お前は自分の目に入った他の怪談が疎ましかったのだろう? だから唐突に現れ、躊躇いなく斬りつけ、畏怖を横取りしたつもりだろうが、お粗末な事をしたものだ。ただ脅して帰せばよかったものを、首を切り落として動けなくして、その上我々の全員の首も落とすつもりでいるときた。だから阿呆だよ、お前は。ここで瓜二つの死骸が出れば、怪談として注目を集めるのはお前などではない」  七枚舌の奧に隠した牙で相手の耳元へ食らいついて、あとはジワジワと唾液で相手を腐らせようとする。  聞く耳を持ち、言葉を解し、物事を考えてしまう頭を持ち合わせていれば、その時点で大体の人間は身空木の術中にある。    惑わし揺さぶり化かして、また微笑む。 「“同じ顔をした死骸のツガイがあれば、誰の仕業と思われるか、想像してみろ“」  言われた通り想像でもしたのか、眼鏡武者の顔が曇り始めた。
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