ドッペru原画ー ノ 肆

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 §   §   §  包丁を叩き付けて、肉を切る。  あれから僕は、斯く斯く然々とあって、今は包丁で肉を裂いている。  もう色々と疲れたので、かなり適当に肉を裂いている。  まな板の上で踊る赤い肉に、包丁を叩き付け、引いたり押したりして、切り開く。  もちろん、こんな時間に肉を食べようと言い出したのは身空木だった。  冷え切った身体には鍋がいいと我が儘を言う身空木に、こんな時間に材料の調達ができるわけないと説得を試みる僕。  材料は全て揃えてあると、身空木が大型冷蔵庫をご開帳すれば、かなり偏った品揃えに、これではビタミン不足だし、煮込むのに時間がかかると反発する僕。  ならばシチューにしろと、圧力鍋を取り出され、結局、押し切られる形でシチューの材料を下ごしらえすることになった、僕。  身空木がシャワールームに籠もって冷えた身体を温め、削雛さんは未だ意識を取り戻さないので寝室のベッドへと寝かせ、僕はせっせとシチューの支度をしていた。  そんなここは、身空木楓の自宅だ。  いくつかの偽名を所持する身空木が、唯一本名で借りているという、特異階級保有者専用の高級マンション寮は、学園内でも名高い上に、実質、家賃も相当にお高い、4LDK 。    どう考えても一人暮らしには不要であろう業務用冷蔵庫と新型調理器具が易々と収まる、U字型システムキッチン。    二十五畳はあるだろう、ダイニングは暖色系の間接照明とアロマの香りが広がり、インテリアはシックな高級感で統一。    これが学生専用寮だというのだから、目を疑う。いや、むしろ嘘であってほしいと思う。    そんな中、僕は黙々とシチューを作る。  なぜか用意されていた、フリル付きエプロンを装着して。
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