ドッペru原画ー ノ 肆

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 どうやら、身空木が起こしてきたらしかった。  急遽、食器一式を一人分増やし、パンもスライスして、リビングのテーブルへと並べる。 「雑務担当御苦労、さぁ席に着きたまへ、何はともあれ楽しい夕餉としようじゃないか」  ここまでやらせておいて、やはり仕切るのは身空木なのだ。  言われるがまま食卓に着き、誰一人喋ることなく黙々とシチューを食べ終え、食器を炊事場へ運び終え、食後のコーヒーでも煎れようとキッチンに戻る最中、終始浮かない顔をしていた削雛さんが口を開いた。 「……なにがあったのか、説明して」  唐突な、要望だった。  いや、これは当然の要望だ。 「さて、なんのことかね?」 「とぼけないで。いくら何でも、あんな事が勘違いや、記憶違いのわけがない。教えて、私に何があったの、私達はどうして生きてるの、あんた達はいったいなんなの、私のドッペルゲンガーは、そもそも私は――!」  カン、と音がした。  矢継ぎ早に投げかけられる問いを、身空木が空のコップでテーブルを叩いて止めた。 「気安く強請るな、うっとうしい。何があったのか? どうして生きてるのか? 自分で考えもせずに安易に答えを求めるな」  深く腰掛けた椅子の上で、身空木が高々と足を組み替える。 「私はお前の命を救ってやった、ここへと運び、暖かな部屋と、暖かなベッドと、暖かな食事を与えてやった。それでも尚も欲するのは、いささか強欲過ぎるとは思わないのかね?」  だけど、その言い分には僕も言うべき事があった。 「ここへと運んだのは僕だし、食事を作ったのも僕だ、その分ぐらいは教えて上げてもいいだろ?」  命を救われたのは事実だし、与えられているモノが多いのも、また事実だけど。  でも、このままでは、削雛さんも絶対に納得なんてできないだろう。 「……やはりこの女の肩を持つのだな、君は」 「足りないのなら、今から身空木のコーヒーだけインスタントにするぞ」  それは困ると、身空木が口をへの字に曲げて嘆息した。
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