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そのまま、削雛さんが深々と首を下げて、溜息を吐いた。
そもそも、この嘘吐きに質問形式での問答が無意味な上に、ストレスが貯まるだけなのだ。
「身空木、インスタントはどこの奴がいい?」
せめてそれぐらいの選択はさせてやろうと訪ねれば、
「私から言える本当の事は、たった一つだよ。これだけでも充分過ぎる程に料金不足だがね」
そう、返された。
「……なによ?」
身空木が本当の事を自分で言うのは、それすらが珍しい事だと思うけど、さすがにここまで来て、そこまで阿漕な商売はしないと思いたい。
身空木は削雛さんを真っ直ぐに見つめながら言った。
「それは、お前達が “本物” だ、という事だよ」
言われて、どういう意味か、僕には理解ができなかった。
ただ、削雛さんだけが、失念していた事を思い出すように、目を見開いた。
「その確証は……どこにあるの?」
「しかし本当によかったじゃないか、あの怪談が向こうを最初に斬り付けてくれて。二分の一の運で生き残ったというわけ――」
「だから! 私達がドッペルゲンガーじゃない証拠はあるのかって聞いてるのよ!」
言われて、どういう意味か、僕はようやく解った。
そうか、そうだった、そう言えば、あれはそういう怪談だったのだ。
もし、今ここにいる僕や、削雛さんが、実は“ドッペルゲンガーだったら”という可能性を、僕は完全に考えていなかった。
「そうちゅんちゅん囀るな、近所迷惑だ」
「こ、のっ!」
自分が、本当は偽物かもしれないという事を、考えてもいなかった。
「身空木、それ以上茶化すなら、僕が怒るぞ」
削雛さんが、その事にもっとも固執しているのは既に知っている。
そして、散々と偽物扱いされ、傷つき続けてきたという事も。
「…………なぁシュウ、どうしてそこまで、この女の味方をする?」
「ツインテールだから」
「“嘘”だろ、それは」
「“本当”だよ、多分ね」
やれやれと、互いが互い、そう思った事だろう。
僕はポットの湯口を切って、身空木は口を割った。
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