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「簡単な話だよ、私はお前達の正確な“位置”を把握していたんだ」
「位置……?」
「そう、位置だ。なんのために私がナビゲーターをしていたと思っている。君達は西棟から東棟へ向かっていた、私がそうするように指示していた。だが向こうは、東棟から西棟へと渡り廊下に来て、首を刎ねられて動かなくなった。倒れていた君らの位置からして、ほぼ間違いないだろう。お前等が近付きあって取っ組み合いにでもなっていたら、それこそ解らなくなっていたがね」
身空木は僕達の位置を、かなり逐一訪ねていた。
ドッペルゲンガーに近づくなと言っていた理由も、またそれだったということらしい。
「……それ、だけなの?」
「私のナビゲーションでGPS代わりになってやったんだ。これ以上の確証もあるまいよ」
「…………そう」
何かが納得でないのか、削雛さんは寒そうに両肘を抱えて、顔へ深い影を落とした。
再び浮かない顔をしているが、状況はそう悲観的になる事もないはずだ。
なぜなら、
「でもこれで、ドッペルゲンガー事件も解決しましたね」
なにせ、あの二体のドッペルゲンガーは死んだのだ。
見事なまでに首を刎ねられて、落とされ、転がされ、あの二人はなんの疑いもなく死んでいた。
これで削雛さんの依頼が、文字通りに達成されたのだから、僕は明日から妹の機嫌を取るための献立を悩むことができる。後は身空木がいつものように普通科への転科も行ってくれるだろう。そして、
「これで僕もようやく、この女装から解放され――」
「――何を言ってるんだね、君は?」
エプロンを解こうとリボンへ伸ばしていた指が止まる。
嫌な予感は、実の所最初からあった。
話が少し、出来すぎているような、違和感が僕にもあった。
でも、これで話が万全として、削雛さんが納得して終えられるのなら、それでいいと思った。
思って、いたのに……。
「まだ、この怪談は終わってなどいないぞ? “ドッペルゲンガーは、他にもまだいる”」
思惑は反して、リボンに絡めた指を、
「だが、これで全ての 嘘 は出揃った。あとはくだらない真実を解き暴くだけだよ」
それを再びきつく縛るに終えてしまった。
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