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柔らかすぎるベッド、キツイ香水と化粧の香り、なにより、月明かりに照らされ微笑むぬいぐるみ達からくる無言の視線が気になって、就寝できずにいた。僕は、こんなに神経質だったのかと自問しながら、深々と布団を頭まで被る。
深い暗闇と、自分の呼吸だけが聞こえる中で、また考え事を始めてしまった。
身空木は言った、
『今日中には全てが片付くだろう、私はもう少し準備をしたら眠るよ』
嘘ではないと、思った。
身空木が、この数日で削雛さんと、怪談における話を全て集め終えたのなら、それは消して嘘ではないのだろう。
身空木楓は、千の嘘から、一つの真実を掬い取る。
だけどそれは、所詮、嘘を集めるためのついでなのだ。
身空木は、真実よりも、嘘を愛でる。
そしてついでに手に入れた真実で、また嘘を創るのだろう。
そんな事を考えていると、ふつふつと温もりが足下から上ってきた。
身体のスイッチが、一つ一つ切れていくような脱力感。
ぼやけだす意識の中、ようやく眠りに落ちることができるのだと安堵していると、
――ふぅっと冷たい風が首もとを掠めた。
同時に、ベッドがさらに深く沈む。
微睡みだしていた意識が僅かに起き上がり、瞼が持ち上がる。
もそもそと、ごそごそと、誰かベッドに入ってきている。
さすがの僕でも察しがつく。十中八九、身空木が悪戯か何かを企んできたのだろう。
置いていった枕を投げ付けてやろうかと考えながら、暗闇にぼやけていた輪郭が形を成して、熱を感じた時、ようやく相手の顔がしっかりと見えた。
目の前には、削雛さんの顔があった。
……目の前に、削雛さんの顔がある。
…………目の前に、削雛さん、顔、長い睫、大きな瞳、唇、近、
「なん――ッ!?」
「しっ、黙って」
伸びてきた両手で口を塞がれてしまった。
「あいつに聞かれたら飛び込んでくるでしょ」
削雛さんの指先が僕の唇を塞ぎ、応答の意志を両目で迫られた。
跳ねる心臓を吸い込みづらい呼吸でなんとか押さえ込み、静かに頷いた。
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