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「少し、二人きりで話がしたくてきたのよ」
そう言って、削雛さんは塞いだ両手を離して、自分の胸前にしまい込んだ。
「……迷惑、だった?」
「い、いえ、すこし驚いただけです」
「そう、ごめんね」
あくまで小さく、羽毛布団の隙間に落とすような小声を心がけた。
「……あの、話をするのならリビングで」
「ここでいい」
「でも」
「ここがいい」
「……はい」
どうしてこんな状況になっているんだろう。
強烈にピストンされる心臓の音が、冷静に考えさせる時間と思考をどこかへと流していく。
「その……お礼、ちゃんと言ってないと思ってさ。あいつがいると、なんか茶化されそうだったし」
「お礼ですか?」
「そう、こういことは、しっかりしておかないと、嫌な質なのよ」
「でも、まだ事件が解決したわけじゃ」
「そうじゃなくて、今夜の事……あんた、私をかばってくれたでしょ?」
「あぁ……」
でも結局、あの偽物のドッペルゲンガーは削雛さんを守る事もできないまま、ざっくりと切られてしまったわけなのだけど。
「他にも色々、助けてもらったから、その……ありがと」
瞳が僕を見て、僕を写していた。
ただただ、真っ直ぐに、僕等は見つめ合っていた。
「い、いえ、こちらこそ」
「なによ、私は別に何もしてないでしょ」
「そんなことはないですよ」
「……そうなんだ。えっと、じゃぁ言いたかった事は、それだけだから、ごめんね、遅くに」
そう言って、削雛さんは布団の中で反転し、僕に背中を向けた。
「はい、おやすみなさい、削雛さん」
わざわざお礼を言うために部屋へとおもむいてくれた律儀さに感服しつつ、申し訳なくも思った。
明日も学校に行くことになるのなら、少しでも早く自室で横になって欲しい。
「……そ、それにしても、こっちのベッドはふかふかね、すごく寝やすそう」
ふさふさ、ベッドが揺れる。
なぜかすぐにはベッドから出て行かず、ゆさゆさと身体を軽く揺すって、その柔らかさを確かめているようだった。
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