55人が本棚に入れています
本棚に追加
「そっちのベッドも同じぐらい柔らかくなかったですか?」
向こうの部屋も、相当に高そうなベッドだったはず。
削雛さんを運んだの僕だし、寝かせたのも僕なのだ。
「え……あぁ、そう、あれよ、私の肌には合わないって感じのでさ」
「なるほど」
寝床の選り好みは人それぞれだし、きっと僕には解らない芸術肌的な何かが、きっと削雛さんにはあるのだろう。ならばここは、僕が一肌脱ぐべき場面だ。
「じゃぁ、ここで寝ますか?」
「へっ!?」
ゆっくりと安めのなら、それが一番だと思った。
「い、いやでも、それって……」
「僕がそっちの部屋で寝ますから、どうぞこっちを使ってください」
義を見てせざるは勇無きなり、なんてそこまで恩着せがましい事は言うべきではない。ここは普通科怪談部雑務担当である僕が、ごく普通に譲るべきだ。むしろ願ったり叶ったりと思うべきだ。
さっそくと背を起こし、一度布団を捲り上げてベッドから這い出ようとした所で、
「……ちょ、ちょっとまって」
グイっと、シャツの裾を掴まれ、引き留められた。
見れば、削雛さんも僕と同じような格好をしている。
つまり、シャツ一枚。下着一枚。
身空木とは違うけど、それでも白く、綺麗な肌と脚。
僕と同じなれど、女性である削雛さんが着崩せば、かなりセクシャルな格好になってしまっている。
「そ、その……そんな格好だと、風邪ひきますよ」
「私の事はいいから…………いや、ごめん、これもやっぱり、私のことだ」
引き付けられる裾端に力がこもる。
「……ねぇ、お願い。答えて」
見上げる瞳には、怯えにも似た、焦燥感が宿っているように見えた。
削雛さんが、一息飲み込んでから、口を開いた。
「私は……私達は本当に、 本物 なの?」
そんな事を、削雛さんは僕に尋ねた。
よりにもよって、この僕にだ。
最初のコメントを投稿しよう!