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思わず、持ち出す言葉を悩んだ。
「……身空木が言ってたとおりなら、僕達は本物ですよ」
「でも、だって、あいつは 嘘吐き なんでしょ?」
震える、削雛さんの声に、歪む瞳に、言葉が詰まった。
「考えたら、なんだか眠れないのよ……クラスの奴等にいくら偽物扱いされても平気だったのに……あの女に言葉にされたら、なんだか不安で、解らなくなってきて……すごく、恐いのよ」
確かに、身空木は嘘吐きだ。
友人を騙し、
隣人を欺し、
他人を瞞し、
嘘のためなら、なんでもするような奴だ。
痛い目を見たくなければ、信用なんてしてはならない人間だ。
どんな言葉も、信用に足ることはない人間だ。
だったら、僕もとっくに、偽物になっているのだろうか。
「大丈夫ですよ、僕達は本物ですから……」
そんな事は、考える必要もなかった。
酷く、無責任な言葉だと思った。
「だったら!」
掴まれていた裾が放されたと思えば、今度は手首を掴まれ、引かれ、再び僕はベッドに倒された。
シーツの海へ深く沈み、押し込まれる。
「ちゃんと私を見て。私を見て、私が本物だって、言って……」
仰向けのまま、馬乗りになられる形で、僕は削雛さんにベッドへ押さえ込まれていた。
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