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これも身空木自身の自意識的問題という意味でもない。
可憐に見える少女だと思わせる――、彼、彼はつまる所、身空木楓は、歴とした男だ。
僕と同じ男、少年、xとyの両方の染色体を有している、雄。
男、名簿にも男子列で名前があり、虚弱な体質を理由に体育こそ直に参加はしていないが、ちゃんと男子の授業で見学をし、それでも何かの勘違いだと信じて止まない生徒は、身空木が男子用のトイレへと何の恥ずかしげもなく入っていく姿を見て、儚い思いを壊され、騙されたと気がつく。
御影ノ学園は厳しい校則があるわけではない、存在する校則を遵守する事こそ厳しく強いられるだけで、生憎にも男子が女子用のセーラー服を着てはならいという校則が無い。
そもそもそんな物なくとも女子用のセーラー服を好き好んで着用する男なんてそうはいない。
ならなぜ女装なんて事をしているのかと本人に問えば、勿論、嘘のためだと答える。
それこそが、これこそが、嘘を体現する身空木楓の姿なのであると。
「…………えっと」
そんな身空木の目が怪しむように歪んで、僕を見て、しばらくしてから、突然と微笑まれた。
「あら、どちら様でしょうか?」
「……はい?」
さっきまでの気怠げな声が嘘に思えるほど、豹から一瞬で猫をかぶりな声と表情で身空木が上品な正座になって、スンっと背筋を伸ばした。
「ようこそ怪談部へ、今日はどのようなご用件でしょうか?」
唐突に清楚で上品な微笑みと、違和感丸出しの言葉遣い。
そもそも机の上で正座が場違いだけど。
また何か、お遊びでも思いついたのか、それともいつもの猫かぶりなのか……どちらにせよ、気味が悪い事に違いはない。
「何言ってるんだよ、僕は歴としたここの部員だよ」
「あぁ、新入部員の方だったんですね、通りで初々しい格好を」
「僕は二年」
「転校生?」
「在校生」
「嘘?」
「じゃない」
「声だけはあの色情犬とそっくりなのですね」
「そもそも僕は色情犬じゃないからね?」
「あぁ、色情魔さん?」
「犬からまさかのグレードアップ」
「色情魔王様?」
「ついに一国一城の王にまで……僕は一夜にしてどれだけの不祥事を犯したんだ」
すごい躍進、すごい昇進、不名誉極まりないけど。
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