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海の底へ向けて押し込もうとする両手が、僕の両肩を掴み、絞られていく。
そこには痛みがあった、明確な痛みが。
でも、そんな事は些細な事で、どうでもいいことで、そんな事より、削雛さんの両目から流れ出す透明の滴が、僕の頬を打った。
明確な恐怖、感情の隆起、吐き出される熱を孕んだ液体が、頬を伝って、落ちてくる。
削雛さんは、真実を求めている。
真実の確証を求めている。
自分が本物だという、存在証明を、こんな僕なんかに。
「本当の事を言って……シュウ」
鋭く、穿つように、僕の顔を叩く涙。
僕が嫌いな、僕の顔を叩く度、その熱が塗りたくっていた、“嘘”を溶かそうとする。
真実を求める涙が、僕の嘘を、食い破ろうとしていた。
「――私を見て」
やめてください。
やめてください。やめてください。やめてください。
僕にそんな事、わかるわけないじゃないですか。
僕にそんな事を求めないでください。
今の僕は、まだそんな事は知らないんです。
知らないんです、わからないんです、今はまだ、そういう人間(セッテイ)なんです。
だから、僕に真実なんて問わないでください。
「 私達だけが本物だって、言ってよ……」
そんな目で僕を見ないでください。
そんな目で僕を写さないでください。
僕は、僕が、嫌いなんです。
貴女が覗こうとしている、写そうとしている、僕の奧にあるモノが、僕は嫌いなんです。
貴女まで、知ろうとしないでください。
僕の嘘を、除かないでください。
どうだっていいじゃないですか、本当かどうかなんて。
僕には、僕には、僕には、
―― “ ぼく ”には、
「 “蒐” !」
“ 貴女が偽物かどうかなんて、どうだっていい ”
「――やめて、ください」
これ以上は、駄目だ。
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