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震える胸が空気をうまく押し出せず、溢すように言った。
僕は削雛さんを押し退けた。
その身体は軽く、まるで羽のようだった。
僕は泳げない魚のように、ベッドの上を這って、陸地へとずり落ちる。
立ち上がって、覚束ない足取りで扉に手を掛け、開き、廊下へと逃げた。
冷たい廊下の空気を吸い込み、その場で両膝の力が抜け、扉を閉じ、背にして、削雛さんを閉じ込めるように、僕はその場で丸まり自分の両膝に縋った。
早まる心音が、食べたばかりの胃袋を締め上げる。
吐きそうだ、僕はまた、吐き出しそうになっている。
それだけは駄目だ、こんな所で、コレを吐き出すわけにはいかない。
自分の手首を咥えて、背中から聞こえる微かな泣き声から逃げるように、強く、強く、骨を噛んだ。
込み上げてくる、渇望の呻き声が、誰にも聞こえないように、強く噛みしめた。
――解るはずがないんだ、僕なんかに。
真実を求める人に、僕は何一つ、真実を教えることなんて、できないんだ。
だって、所詮、僕は――
真東蒐の “偽物” なのだから。
§ § §
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