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クラスメイト達が浮き足立つ、ホームルーム前。
一通りの授業も終わり、明日からやってくる連休へ向けて心が騒ぐ、終ベル時。
そんな、満ちる活気が瞼裏を締め付ける。
あきらかな寝不足の症状と戦いながら、重力に従順になった瞼を擦り上げ、僕は授業を朝から受けていた。
何事も無かったかのように、何事も無かったとするように、授業へ出た。
昨夜、あの後、人には言えないような粗相とゴタゴタを乗り超え、僕は一人、リビングのソファーで僅かながらの仮眠を取った。
浅い眠りから目を覚まし、見れば遅刻ギリギリという時刻に、思わず授業のボイコットを視野にいれたが、テーブルの上に用意されていた朝食とメモ書きを見て、行かないわけにもいかなくなった。
三枚のメモ用紙と、トーストに形の悪い目玉焼きらしき物体。
ぬるくなったコーヒーで朝食を流し込み、身空木が書き残したらしきメモを改めて読む。
今日一日の段取りが指示されており、僕は書かれた事に従って、支度をして、着替えをすませ、鍵を閉めて家を出た。
言われた通り朝から授業を受け、理解に苦しむ芸術の歴史に耳を傾け、描けもしない素描に四苦八苦し、体育の授業を体調不良(というか、体操着がなぜか紛失していたため)を理由とし見学、そのまま午後を迎え、今に至る。
今日は身空木も、削雛さんも、朝から教室に来ることも、どこかで見かける事もなかった。
そのまま、連休前のホームルームへ。
進行役である白津先生が教室へと到着するのを今か今かと待ち構えるクラスメイト達の心中が漏れ出し、楽しい連休の予定を話し合うざわめきがピークを迎えた頃、
音が響いた。
バン――と、
解放の合図(ベル)ではない、それはけたたましく、短い、器物が衝突する、鈍い音。
叩き付けるように思い切り開かれたのだろう、教室の扉へと視線が集まる。
白津担任が、週末の学生らしい行動を呼びかけるだとか、そんな他愛なく、どうでもいい話をしに来たのだと、静まり注目が集まる、その一点。
そこに、――身空木は立っていた。
「やぁ生徒諸君、少々失礼させてもらうよ」
普通科のセーラー服姿の身空木楓が、そこには立っていた。
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