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クラスの響めきが波立つのを合図に、身空木は教壇へと歩み寄り、
「自己紹介をしよう、私は普通科二年、特異階級保有者、身空木楓というものだ」
クラスの面々と向き合い、堂々たる宣言を行った。
「さて唐突の事で悪いが、君達には今より担任の白津教師が来るまでの間、私達、普通科怪談部の部活動に参加してもらおうと思う。異論は認めよう、だがその必要がないような楽しい時間になるよう、努めさせていただく所存だ」
どっ、とクラスが沸いた。
声が沸き起こり、やがて嘲笑混じりの視線が向けられた。そして、
「誰かと思えば、授業をさぼるだけじゃ飽きたらず、いきなり現れて何を言ってるのかしら。そんなコスプレまでして、本当に困った人ですね」
クラスの心中を代弁したと言わんがばかりに立ち上がった鈴村さんは、腕を組んだまま躾のなってない子供をしかるように、身空木を窘めた。
それは、鈴村さんとしては至極真っ当な対応だ。
自分達の学科で、他学科の制服を見ることなんてそうはない。美術の題材としてセーラー服を描きたい人がモデルに着せるような事はあっても、その格好のままでホームルーム前の教室へ侵入するなど、充分過ぎる程にそれは冗談の域だと思われたのだろう。
なら、クラスを預かる委員長として、その行動に意を唱えるのは当然だろう。
「有馬? 誰だねそれは。私の名前は身空木楓、正真正銘、本物の身空木楓というものだよ」
身空木も、一応だが嘘は言っていない。
が、その対応もまた鈴村さん達にとっては悪ふざけの継続としか思われないだろう。
「あらあら、不登校児が通学し始めたと思ったら、今度は目立ちたがり屋の問題児? クラスを代表して言わせてもらうわ。酷く滑稽よ、有馬さん」
あの顔はクラスのメンバーにとっては、どう見ても有馬という人物でしかないのだ。
最近まで不登校が続いていた、不登校児の有馬という名の女子生徒でしかない。
「どうやらさっきから話が噛み合っていないようだね。私はこの教室に来るのは初めてだし、なんなら普通科に問い合わせて貰ってもいいくらいだが……あぁそうか、どうやら君達は、全員して流行りの怪談に魅入られたのではないのかい?」
「怪談? あぁ、そういうこと」
「そう、今まさに、この学科内で流行している怪談話、“ドッペルゲンガー”だよ」
言葉に、クラスが再び大きく沸いた。
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