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笑い、嘲笑、蔑みの空気が視線を辿って伝播する。
「有馬さんの言うことを信じれば、クラスに二人もドッペルゲンガーがいたことになるわね、それは大変だわ、どうしましょう?」
口端を持ち上げて、上品そうに鈴村さんは笑う。
意思の疎通はなくとも、クラス全体が事を理解し、同じく笑う。
現状を客観的に見れば、つまりはこういうことなのだ。
こいつは、流行りの怪談の登場人物になろうと、一芝居打とうとしている大馬鹿だ、と。
「まったくだ、これは由々しき事態になっているようだ。あぁところで委員長」
「はいはい、なんでしょう、有馬さん?」
尚も上品に微笑む鈴村さんに対し、身空木は真剣な表情で続けた。
「私はこの話を聞いた時、とても君の事が心配になった。君、“本当に大丈夫なのかね?”」
一瞬、僅かにだけど、鈴村さんの笑みが解れたように見えた。
「……それは、この右腕の事かしら? だけど貴女には話したはずよね、この腕の事も」
「残念ながら何を言っているのか解らないな。私は君が治療を受けた病院の担当医から偶然にも話を聞いたのだよ。なんでも、あの特異階級保有者、削雛千鶴のドッペルゲンガーに階段から突き落とされたとか?」
この事には、クラスの動揺が無いように思えた。
恐らく、既に本人がふれ回っているため、誰もが知ってのことなのだろう。
「……お医者様が、個人情報を簡単に漏らすわけないでしょ」
それはごもっともな斬り返しだった。
「おっと、さすがは芸術科の一クラスを担う委員長ともあれば聡明だ。すまない今のは嘘なんだ。確かに私は話を直接聞かせて貰おうと病院に出向いたのだがね、見事に門前払いを食らってしまったよ」
そうでしょうねと、鈴村さんが目を細めて笑った。
「残念な事に、“鈴村という名前の生徒が治療をした記録は無い”、とね。いやはや、昨今の個人情報のセキュリティーの高さは実に素晴らしいと思わないかね?」
そんな事を身分詐称の常習犯が言った。
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