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クラスがニヤつくなか、鈴村さんだけが声を低めた。
「……それで、それがどうかしたのかしら? これ以上こんな事に時間を浪費したくないと、クラスの皆がそう思っているのをそろそろ察してくださらないかしら」
「そうだな、私もこれ以上こんな事で時間を浪費したくない。なので早速で悪いが、ここからは我らが怪談部の活動とさせていただこう」
「貴女、さっきから人の話を――」
声を荒げかけた鈴村さんへ、身空木はさらに大きな声で宣言する。
「私達普通科怪談部は! かの名高きドッペルゲンガー、その正体を突き止める事に成功した!」
堂々と誉れを謳うかのように、自信と確信に満ちた笑みで、身空木は宣言する。
言葉に、一時の静寂。
そして再び沸き起こるだろう盛大な嘲笑、その寸前に、
「私は委員長である鈴村君を無慈悲にも階段から突き落としたなどと吹聴されている怪談、ドッペルゲンガーの正体を掴んだのだ。この確固たる証拠をクラスの皆に提示する事で、この”くだらない怪談”騒ぎに終止符を打つと約束しよう!」
言葉を差し込み、クラスを制動する。これが合図だった。
僕は窓際の席から立ち上がり、集まる視線を無視しながら、窓辺の遮光カーテンを一つ一つ閉じていった。
光が落ち始めたクラスへ、波紋が広がるように微熱が騒ぎ出す。
高揚の雰囲気がじわじわと沸き上がり始めている。
「さぁ驚くなかれ、いや驚いてもらっていい。私は、この学科を騒がす二重存在、怪談ドッペルゲンガーが現れる決定的瞬間を “映像” として残す事に成功したのだよ」
何か、面白い事がおこりそうだ、そんな雰囲気にクラスが呑まれ始めている。
皆の琴線へと言葉を投げ付け、興味の指針を操って、身空木楓という詐欺師が巡らせた巣の中へとクラスの面々が向かい始めていた。
恐らく、一人を除いて。
「……そう、どうやらクラスの問題児は三人だったようね、真東さん?」
冷たく鋭い言葉が教壇へと向かう僕を刺した。それは酷い誤解です、問題児は身空木だけです。僕は書かれてあったことに従っている、ただの雑務担当なんです。
そう心中で懺悔を繰り返しながら、黒板前にスクリーンを引き下ろし、蛍光灯のスイッチをオフにする。程よい暗闇が教室に満たされた。
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