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「彼女には私が強力してもらえるように頼んだのだよ。快諾のおかげで成果も得た。それではさっそく、映像を見てみようじゃないか。さて最後に笑い者になるのは、誰だろうね」
身空木が教壇から出入り口前で佇む僕の隣へ寄るのと同時に、予め仕込んであったのだろう映像データがプロジェクターから射出され、スクリーンに映し出された。
映っているのは、明かりの落ちた、雛鳥の巣。
第二特別美術室を斜め上から見下ろす、そんな映像だった。
クラスの響めきが膨れ上がる。
ここが、削雛さんのアトリエだと知っている人間は多かったのだろう。
やがて、巣に光が差し込まれる。
十秒経過、
巣へ踏み行ってくる、鈴村さんの姿。
十五秒経過、
蛍光灯を灯し、散らかった足場へ鈴村さんが汚い言葉で悪態を吐く。
二十秒経過、
巣の中央で鈴村さんが辺りを見回す。
二十五秒経過、
そのまま付近を探り、何かを探している。
四十五秒経過、
何も見つからないのか、焦るように鈴村さんが汚い言葉で悪態を吐く。
五十五秒経過、
三角巾で抱えていた右腕を引き抜き、両手でザクザクと捜し物を再開する鈴村さん。
二分十秒経過、
『どこよ……どこにあるのよ、アレがないと……次のコンテストが……あぁっもう!』
三分三十秒経過、
ついに一枚の絵を見つけだし、デジカメで撮影を開始する鈴村さん。
五分経過、
何事もなかったのように、辺りを元通りに整えて巣を後にする、鈴村さん。
映像はそこで終わっていた。
決定的なモノを残して、終わっている。
クラスには、静けさだけが残ったが、そこに、
パンッ――と、身空木が叩く手の音で、時間が動き始めた。
これが合図だと、僕は再び、カーテンへと向かい、手早く開いていく。
差し込む光に照らし出されるのは、呆気にとられているクラスメイトと、
青ざめた鈴村さんと――
下唇を湿らせて、蜘蛛の巣へと絡んだ獲物達に微笑む、身空木だった。
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