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「さて、これでこの映像は終わりなのだが、つまりは――」
「ふっ、ふざけないでッ!」
答えを遮るように、鈴村さんが叫んでいた。
「なにがドッペルゲンガーの証拠よ! こ、こんなの、ただの造り物じゃないっ! でたらめだわっ!」
見れば、さっきまでの上品な振る舞いなど忘れてしまったかのように、あからさまな怒りを顔に浮かべていた。
「残念ながら、これはトリックではないよ。これは正真正銘、混じりっけ無しの映像だよ。どこもイジっていないし、それも調べてもらえばわかることだ」
鈴村さん、そして身空木が言っている事が本当なのかどうか、僕にはそれを確かにする知識がない。
だけど映像というものが、実は何らかの技術で編集、偽造可能な物だとすれば、恐らく身空木はその技術を身につけていると思っていい。
この場合における僕が知りうる事は、一つだけだ。
あの隠しカメラを持ってきたのは、確かに僕だということだ。
普通科怪談部の部室に押し込まれてあるのはオカルトグッズの類だけではない。
身空木がどこからともなく持ってきた、用途不明なガラクタの数々。その中に、あの小さなカメラは混ざっていた。
バッテリー式、連続稼働一二時間、動く目標物が写りこめば自動で録画を開始する優れものだと鼻高々に自慢された、最新の盗撮カメラ。
身空木がそれらを仕掛けたのは、恐らく昨日の昼過ぎだろうと推測する。
なら下校時刻を踏まえて考えれば、この映像は夕方近く、丁度僕と削雛さんが喫茶店でお茶をしていた頃だろうか。もしそうだとしたら、前もって何もかもを解っているようなタイミングで設置して、鈴村さんも最悪のタイミングで現れてしまったものだけど。
だとしても、
「さて、ここはこのクラスの元委員長、削雛千鶴の個人アトリエとして学園側から提供されている教室だ。私は件のドッペルゲンガーとしてもっとも多くの噂が囁かれていた削雛千鶴の部屋に潜入、その正体を探るために隠しカメラを設置させてもらった上で、この学科中に“ある噂”を餌として撒かせてもらったのだが……」
いくらドッペルゲンガーの証拠を掴むためとはいえ、その方法がまさかの隠し撮りなんだから……僕が探偵役に不向きだとすれば、身空木は探偵役失格の存在だと誹りは避けられない事態だ。
……だけど身空木は悲しい程に探偵役でもなんでもないのだ。
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