ドッぺru原画ー ノ 壱

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「……ふむ、その冴えない上につまらない上に勢いのない突っ込み……どうやら本物のようじゃないか。私を騙すための手の凝った芝居かと思ったよ。それより、いやはや驚きだ、なんだねその格好は? いやまてまて、ではあの噂話もあながち嘘ではなかったということになるのかね?」  本当に驚きだと、興味ありげに驚いて見せた身空木が途端に猫を脱ぎ捨てた。  優しげだった微笑みを取り消して、伸ばした背筋も折り曲げて猫背になり、堂々と足を解いて胡座をかいて、膝の上に頬杖を着いた。    まさに豹変。    ここまで来ると一発芸か何かとも思える。 「噂話なんて本当なら聞きたくもないんだけど、一応聞いておこうかな」  訪ねるやいなや身空木は胡座を組んだまま、器用に長机の上を両手で滑るようにこっちへと来て、見上げるようにしてさっきより嫌な笑みを浮かべてから、 「いやなにね、この嘘吐きですら眉唾な信憑性のないと思っていた噂話だよ。なんでも二年普通科のEクラスに突如として現れた男装の令嬢が、何食わぬ顔で野獣(ケダモノ)の席に座ってそのまま授業を受けようとしたらしのだよ。思わずクラスメイトがとがめれば、その少女は自分が野獣と同一人物だと言い張るらしいじゃないか。仕方ないので彼女が本物か偽物かの審議に一時間目の授業を費やした……なんて、そんなくだらない噂が耳に聞こえたわけだが。まさかまさかとは思うが、その少女とやらは君の事かね?」  訪ねる笑みには、どう見ても確信を得ているような悪意をヒシヒシと感じる。 「はっはっはぁ、身空木はおっちょこちょいだなぁ、そんな根も葉もない噂話に流されるなんてらしくないよ」  いやいやいや、なんて噂が流れているんだ。  でも、身に覚えが無い訳じゃない。覚えなんてアリアリだったりする。  強制的なイメージチェンジを終え、僕が登校した教室で実は一悶着あったのは確かだ。  しかし、身空木が聞いた噂とやらには少し間違いがある。  僕は髪を短くして、顔を出しただけなのだから、そんな僕の審議に貴重な一時間目を費やすわけもなく、そんな事は当然ながら担任教師が許すわけもない。  噂には尾ヒレが付くのは当たり前なのだから、それもまたやむなしとはいえ、事実はもっと簡素で簡潔でしかなく、僕はクラスの担任から出席確認の際……早々の部外者退場通告を受けただけだ。
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