ドッペru原画ー ノ 伍

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「違う……あれは私じゃ……」  自分自身がバラバラにならないようになのか、身体へと腕を強く引き付けている。それでも身空木を直視する程の力が無いのか、鈴村さんの視線は足下へと潜ったままだ。  クラスがざわめく。  音が教室を攪拌させる。  まるで群集で餌に集って蠢く蟲の声だ。  クラス全体が鈴村さんを傷付けるために変幻自在の怪物にでもなったかのような、そんな錯覚を覚える。  すると僕の足場すら途端に安定を失いそうになった。     多くの人は、嘘を嫌う。  だけど僕が身空木と共に行動をするようになってから、解った事がある。  それは、何が真実であれ、どれが嘘であれ、人は信じたい方を信じて、真実にするということ。  合理性とリアリティ、もしくは単に自らが面白いと思う方を真実とし、以下を嘘とする。  この教室においては一体何が真実だったのか、そして何が嘘だったのか、それが無慈悲にも決まってしまった。  そう、思った―― 「――そう、“あれ”は鈴村君ではないよ、君達」  なぜか身空木が、あっさりと鈴村さんに救いの手を差し出した。    微笑み混じりで、一本の糸(スクイ)を垂らしたのだ。 「やれやれ、どうやら皆を勘違いさせてしまったようだが、言ったはずだよ。私は怪談ドッペルゲンガーが現れた瞬間を映像として収めたんだ、とね。まさか本当に委員長が現れていたら、それこそ大問題じゃないか。元委員長である削雛千鶴のアトリエに忍び込んで、あまつさえ作品を盗み見るような事をするだなんて。君達が信頼する委員長はそんな人間ではないだろう? つまり私が言いたいのは、これが鈴村君そっくりのドッペルゲンガーの仕業だと言うことだよ」  再びクラスが響めいた。 「それに彼女にはちゃんとしたアリバイがある。それは、この私が保証しよう」  嘘だ。  根拠もなく、直感的に、僕だからこそ、それを確信した。  だけど、この思いがけない助け船にもっとも呆気にとられた当人は、少しの困惑を挟んでから、 「私の、ドッペルゲンガー……? 私の……そう、そうよ! これはドッペルゲンガーよ! い、いいえきっと削雛さんが、こ、今度もまた私を貶めるつもりで!」  ――すぐさま、飛びついてしまった。
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