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§ § §
「では貴女の怪談話をこちらで買い取らせていただく、ということでよろしいのでしょうか?」
既に猫被りモードでハイバックチェアに腰掛ける身空木は、手にしていたカップをソーサーへと置いた。
僅かながらカビ臭かった部室に、今は僕がわざわざブレンド豆から用意して、この場で中挽きをして、水も水道水を使わずに選別したものを使い、ペーパードリップで丁寧に丹念に煎れて、しっかりと暖めたカップに注いだコーヒーの豊潤な香りで満ちている。
これは自慢じゃないが渾身の一杯を煎れたと怪談部雑務担当としての強い自負があった。
「ちがうわよ! 私の話きいてなかったの? 私は怪談を“殺して”欲しいっていったのよ!」
なのにも関わらず、僕の渾身のコーヒーに手を着ける事すらせず、苛立ちだけを沸かせているお客人、荒ぶる人、自己紹介をそのまま信じるのなら、芸術科二年に属する削雛(はつびな)さんは今にも身空木に飛びつきそうな勢いだった。
芸術科指定の紺色ブレザーにチェックのスカート、怒ってても大きな目が印象的、可愛いと表するよりは線の細い美人系、だけどどこかあどけない顔立ち、そんなアンバランスさが好印象、あとなんか良い香りがする。でもなにより、そんなことより、どんなことより、まずは言いたい、僕は言いたい。
彼女の髪型がツインテールであると。
ツインテールであると、讃えたい。
余計な部分も無い、混じりけ無しのツインテール。
美人ツインテール系、ちょっと荒ぶるツインテール系。
不自然に細くならず、太くならず、膨らみ過ぎず痩せ過ぎず、肩ほどまで伸びているのだろう髪を、絶妙なボリュームを保ちながら黒リボンでまとめた絶妙ツインテール。
だから僕は言いたい、彼女がツインテールを装着していると。
そして僕はツインテールと目が合った。
「……なによあんた? さっきからジロジロ見てきて。私の髪に何かついてんの?」
しまった、まじまじと見ていたことがバレてしまった。
このままではツインテール好感度が下がる。その前にここは上手く誤魔化さねば。
「じつは僕、ツインテール萌えなんです」
「はい? つい、ん? もえ?」
首を傾げられた。
ショック、これはツインショック。
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