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「図々しいかもだけど、オカワリあるならもらえる?」
「もちろんですとも、削雛さんになら何杯でも煎れさせていただきます」
「そんなには飲めないわよ。あ、でもこのブレンド買ったお店は後で教えてよ」
「じゃぁせっかくですから、この後で一緒にお茶でも――」
「うおいお前ら! この私を無視してイチャコラするな! 私もオカワリだよ、オカワリー!」
野暮な、横やりな、粗野な、ガチャンガチャンと空のカップを再びソーサーへと打ちつける行儀の悪さをもって、僕達は視線を再び身空木へと呼び戻された。
「ちっ」
「露骨に舌打ちされた!?」
「わかったよ、じゃぁ自販機いってきていい?」
「あからさまに手抜き!」
「じゃぁこれ、はい百円」
「あまつさえ私にパシらせる気なのか!」
「そういえば、人にお願いする時はなんだっけ」
「どうかコーヒーのお代わりを煎れてください、どうぞお願いします、真東蒐さん」
それは素早くて見事な土下座だった。
これが人に物を頼むときの手本だと言わんがばかりの、見事で、美しい土下座だった。
椅子の上でだけど。
てか、どんだけカフェイン中毒になってるんだろう、こいつ。
「わかったよ」
珍しく殊勝な身空木が見られたので、削雛さんのついでに二杯分のコーヒーを煎れると告げてから、再びドリップポットに水を、IHヒーターにスイッチを入れ、コーヒーミルにブレンド豆を流し込んではゴリゴリ。
そんな僕に納得したのか、土下座から再び背筋を伸ばしての清楚座りでゴホン、とあからさまな咳払いを一つしてから、
「それでは話を戻させていただいて、私共からは怪談話を一つ語らせていただくということでよろしいでしょうか?」
などと、なんと今更な猫被りで微笑む身空木さんである。
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